“小ネタ”を仕込む

ちょっとした
“世界史の小ネタ”を
入れてみよう

『古代で兵士の報酬が塩(salt)だった事が”給料(salary)”の語源』といった、知っておいても実生活に影響はなくとも、創作においてはちょっとしたトリビアになる知識というものも存在します。

ほんの少しだけご紹介しようと思います。が、現実味が混じりすぎればファンタジーである意味が薄れますのでほどほどに……

①川の上は争い厳禁だった

現代のように街道が整備され切っていないのが当たり前な中世期等においては、橋のかかっていない河川は『渡し守』の船を用いて渡るのが当たりまえで、その船上においては争いは禁止というのが不文律でした。

たとえ警察と犯人のような間であってもです。追うものは船尾、追われる者は船首の方へ座り、到着して降りた後に追走劇再開というのがお決まりでした。

②”貴族”は戦死しにくい

どういう事? 戦争で指揮してるんでしょ? と思われるかもしれませんが、欧州において貴族階級は戦場でむやみに殺される事は少なかったそうです。不運(流れ矢等)に死んでしまう事こそあれ、大抵の場合は捕虜にされ、身代金と引き換えの人質とされた後領土に変換される事が多かったとの事。

故に創作物においては、貴族も死んでしまう程激しい戦闘だという表現に落とし込むことが可能という事です。

例外)日本の武士階級 , 中国の皇族・貴族

③”王”は”騎士”に命令できない

少し語弊があるため補足しますが、基本的に封建社会では『直属の上司』の命令でなければ、絶対命令権のような効力を持ちません。

『国王』は『領主A』の部下である『騎士B』に命令する権限は無いという事です。日本の戦国大名も似た関係があります。

中央政府の長が絶対命令を行使する、という時代は近世以降まで待つ必要があります。

④”コスト”を設定しよう

『回復魔法』が存在する世界では医療/薬学は発展しない。『破壊魔法』がある世界では火薬兵器や熱機関が発展しない。MPだったりマナであったりは置いておいて、行使する労力が軽いほどその傾向は強くなります。

所謂”代替”的な発想力は大事になってきます。逆手にとって、行使する労力が高かったり、 才能差が顕著である場合はそのまま特権階級の独占状態にし、下層階級の打開手段が”科学”とするのも面白いかもしれませんね。

また、魔法の発達と同時に形骸化して、科学技術が退化した事で主人公が活躍するストーリーというものもここから編み出せるかもしれませんね。

『街で唯一のアーティファクト職人の俺が~』とかね……

⑤服の”色”に気を付けよう

ライトな作品であればそこまで気にする読者はいないかもしれませんが、補足として覚えておくべきなのが、『服装に使用できる色が、身分によって定められていた時代がある』という事実でしょう。

例として、ローマ時代は皇族以外が『紫』・『スミレヒヤシンス』を使用する事が禁じられていました。

中世以降のフランスの場合、『赤/緑』が貴族の色。『黄』は兵士の色。一般市民は『黒/灰色』、農民は『青』、子供(7歳まで)は『白』。未婚の女性は『水色の服』や『髪形』まで定められていました。

フィクションで気にしすぎかもしれませんが、そこから導入を作る事も不可能ではありません。

⑥貴族/聖職者は2食、農民は5食

食事シーンにおいても、現代においては気にする人はそんなにいないでしょうが、「お昼にしよう」という言葉も引っかかる人はいます。当時、身分の高めな人々は朝食と夕食しかとりませんでした。

中世においては、貴族/聖職者は10時と16時に食事をとりました。貴族は朝食の方に重きを置き、聖職者はかえって朝食の食べすぎは良くないとみなし夕食に力を入れるなど対照的だった事も特徴です。

では農民はというと、6/9/12/15/18時と3時間置きに食べていました。

⑦ごちそうとは

『主人公を歓迎するシーン』で何を饗するかで、歓迎度合いがつたわる事もあります。内陸国舞台である場合、王侯貴族が歓迎する時は『魚料理』がふるまわれました。

農民など庶民階級である場合は『豚肉』であった事が多いようです。牛は農耕動物として重宝されてましたので、老いて役にたたなくなりでもしない限り解体される事はありませんでした。

⑧洗濯はめったにしない

当時は布も貴重であったため、選択もめったにしませんでした。する場合は川といった水辺で揉んで水洗い、しつこい汚れは叩き洗い。

灰に油を混ぜた軟石鹸や発酵させたアンモニア(腐らせたおしっこ)を洗剤にしていました。洗濯屋は時代によっては低い身分として扱われています(洗剤がアレなので…)。

⑨生活は”鐘”の音で

中世における生活サイクルは『協会の鐘』のサイクルが密接に関わっています。お寺のモノと似ていますね。

Ⅰ:朝課の鐘

現在の24~2時頃。修道士はこの時間に起き朝の感謝を神に祈ります。

Ⅱ:賛課の鐘

午前3時頃。修道士が祈祷をはじめ、一般市民が起床時間としているのはこのあたり。

Ⅲ:1時課の鐘

午前6時頃。ミサが行われ、朝食や朝市の始まり。※朝市では時間で販売されるモノも決まっていました。

Ⅳ:3時課の鐘

午前9時頃。農民が畑仕事、職人は生産作業開始。修道士はこの頃朝食に入ります。

Ⅴ:6時課の鐘

正午前後。修道士は畑仕事、農民/市民は昼食時間です。

Ⅵ:9時課の鐘

午後3時頃。このあたりは軽食(おやつ)をとっている事が多いです。

Ⅶ:晩課の鐘

午後6時前後。仕事終わりで、夕食タイム。

ちなみに”夜勤”そのものが、賊と誤解されかねないため禁止されていました。

Ⅷ:終課の鐘

午後9時頃。この時間に大半の人々が就寝します。

起きているのは数名の修道士や門番、あとは夜警の人たちくらいでした。

⑩不自由な結婚

ローマの時代においては、結婚は通常家同士で行われるものでした。日本における大名家同士の政略結婚に近いイメージでしょう。身分差がある場合は基本的には内縁的なものであり、現代で思い浮かぶ結婚はそううまくはいきませんでした。女性側の一族が結納金を納めるのが通常であったようです。

ただし離婚はどちらからでも口にして実行できる自由は認められていました。

一方中世では、”名目上”では個人間の自由な結びつきとされてはいました。家同士や血筋で決まる場合もあるため、身分が上である程自由は無かったようです。結婚には教会の許可が必要で、認められない場合結婚自体が不可能でした。

加えて、離婚も自由は無く、不義を働くか互いが死ぬまで認められませんでした。

 創作の題材として、日本における『縁切寺』のような施設をオリジナルで登場させるのも面白いかもしれませんね。

※封建社会での離婚申し立ては夫からが原則でしたが、苦境に立たされた女性が駆け込んで、半ば強制的に離婚を成立させる特権を持ったお寺が江戸時代には存在していました※

⑪”流通”には制限をかけよう

剣と魔法のファンタジーと聞けば、ロマンあふれる題材と思う所ですが、”さじ加減”を誤ると描写に矛盾が生まれ破綻してしまいます。その一つが『流通』です。例えば”転移呪文”、ドラクエのルーラ等ですが、ゲーム感覚で作中に描写してしまうだけで、流通や経済描写にリアリティがなくなってしまいます。『夜には家へルーラ』、『街から街へルーラ』すれば良いのですから、商人を護衛/襲われる馬車とプリンセスを救う/宿屋で宿泊するといった、おなじみの場面がすべて成立しなくなってしまいます。

乱暴な言い方になってしまいましたが、『出すな』ではなく『出す場合制限をかけよう』です。転移魔法そのものがハイリスク(失敗すると死ぬ)であるとか、行ったことがなければ無理、といった枷を作りましょう。

後は、日常にフォーカスするタイプの作品であれば、舞台となる街と交易を行っている街の特色の違い、流通経路の関所や治安状況などを設定し、非日常に飛び込むパートを仕込む事もできるかもしれません。『〇〇の値段が跳ね上がった』→『治安が悪化して護衛を余計に雇わなきゃ/その護衛が夜盗とグル』といったトラブルから『主人公が解決』するストーリーもできそうですね。

⑫当時ならではの職業

中世を舞台とする作品である場合、主人公以外にも貴族や軍人、物乞いや野盗等人物が多種多様となりますが、『その時代ならでは』の職業もありますので、アクセントとして検討してみましょう。

●写本師

印刷技術が未発達でしたので、当時は出版業が無くすべて手書きの書き写しであり、修道士の仕事でした。そこから題材にできるかもしれません。

●写本装飾師

出来上がった本の挿絵や装飾を担当していました。高価なものはカラーになったりします。

その着想から魔法本絡みのストーリーも組めそうですね。

●代筆屋

今でこそコピーライター等マイナスイメージがついてしまいますが、読み書きができない人が圧倒的に多かった当時は需要のあるお仕事でした。

役所への嘆願書やラブレター等多岐にわたり、ポータブルの机を持ち歩いている特徴もありました。

●遍歴職人

他地域の職人の下で経験を積むために旅をしている職人もいました。技術研鑽を目的としていたため、この遍歴が親方になるための証明/試練のようなものだったそうです。

修業証書が発行され、業種ごとに帽子が決まっておりそれを被ることを許されました。

●公示人

王や領主が定める布告/告示を街の大通りなどで告知する人の事です。これも識字率が低い時代ならではですね。

ラッパやベルを鳴らして告知がある事を知らせていました。

⑬パン屋は”風呂屋”!!

『何のこっちゃ』と思われるでしょうが、中世ヨーロッパにおいて、パン屋が風呂屋を兼ねているケースがありました。というのも、現代でイメージされる風呂屋=銭湯などの湯舟がある場所をイメージしがちですが、湯船につかる風呂事態が一般的ではありませんでした。

『テルマエ・ロマエ』とかあるじゃない! とお思いの方は鋭いです。あれはローマ時代の話であり、中世になった頃には水道等のインフラが後退していたため一般的ではなくなっていました。

では何故パン屋が? という点ですが、当時の風呂とは『蒸し風呂=サウナ』の事でした。パンは焼く際に蒸気を発します。その蒸気をそのまま2階のサウナに流し込む転用方法で経営していたそうです。

ちなみに日本においても、江戸時代後期になるまではサウナのみの風呂屋が主流だったそうです(ただ日本の場合は火災防止のため、都市部では自宅に風呂を設置する事が禁止されていたからですね)。

⑭ロンドン橋は落ちる

国によっては、橋の上には税金がかかりませんでした。支払い能力のない階層であったり、資産はあるが節税したい裕福な人々までも橋の上に住むようになり、一時期は町のような様相となりました。

貧困層の人々の中には、荷物を置いて道をふさぎ通行料をせしめたり、強盗や美人局のような非合法なやりかたで生活費を稼ぐ者もいたそうです。

⑮魔法に”制限”や”工程”は必要なのか

ファンタジー作品を描くにあたり、魔法の『普及』がどの程度なのか考えておいた方がリアリティも生まれます。治癒魔法や破壊魔法が手軽に、誰でもバンバン発動できるなら、怪我も簡単に治ってしまう事から、傷害や殺人の罪も相対的に軽くなってしまうためです。また、医療の発達や技術革新も魔法が存在する場合相対関係になります。

指先に炎が気軽に出せるなら、マッチやライターが発明されないですし、光源が生み出せるならランタンやライトも不必要となります。ある程度の制限は設けましょう。

修練に時間がかかるようにする、又は一定以上の効果を発動させるには才能も不可欠とする。という手もありでしょう。

もしくは発動させるための魔力そのものに種類を設け、一定条件/場所では発動できないため代替手段として技術が発展した、等としても説得力は担保できます。

おわりに

あなただけの幻想世界を作ってください

ここへ列挙したのはあくまで小ネタです。拾っていただいてもかまいませんし、『それが普通だったのであればうちの主人公が逆を行く』と思ってもらえればそれが物語となります。

幻想を画くにあたって、ただ好きな作品ばかりを見ていてもいけません。時には古典、時には歴史を振り返ってみてください。

貴方が尊崇する作品を著した皆さんも、何かを参照して『ソレ』を書いた筈です。あなたが描いた”世界”を見る事を楽しみにしています。